病院・組織マネジメント、医療政策、臨床教育に関するTips/Linksをまとめています。2005年から2010年にかけて、現場で働く医療従事者向けのできるだけ平易な内容で、レクチャー、ワークショップや講演会等で用いたスライド集です。口頭での説明がないと解釈が難しい点があったり、各分野の専門的な内容や研究等が入っていませんが、もし参考になれば幸いです。

 

 よりよい医療をつくるためにも一緒に勉強しませんか?

 

【コンテンツ】

  1. 病院マネジメント
  2. 医療政策
  3. 臨床教育

【今後の医療の展望】

 日本は2040年には65歳以上の人口が国立人口問題研究所の高位推計では35%に達して、生産人口が56%に低下します。国自体の活力を生産人口や経済力とするのであれば、日本は緩やかな衰退のフェイズに入っているという考え方もあります。今後、このような超高齢化社会への人口構造の変化によって、生活習慣病、精神疾患や癌など慢性疾病へ疾病構造がシフトしていきます。急性期病院には慢性疾患の合併症や急性増悪患者が増え、さらに介護施設・療養型病院には寝たきりや認知症の患者も増えていくことは容易に予想されます。また将来の経済状態や国の財政問題を考えると、国民医療費の大幅な増加は期待できないので、日本の医療システムが、現行の医療保険制度の下では、維持できないことは明らかです。

 

 そのような状況の中で、どのような医療を展開していく必要があるのでしょうか?再生医療や遺伝子技術を使ったオーダーメイド医療などの先端医療の導入は夢がある話です。もちろん研究・実用を進めて行くべきです。しかしながら、高齢化社会での社会保障制度を日本で維持していくためには、最も患者数の多く、医療費を抑えられる慢性疾患や予防可能な疾患に集中することになると考えます。一定数の急性傷病患者数(外傷、中毒や感染症)は変わらないとして、慢性疾患のコントロールが、地域医療資源(総合病院・診療所、医師など)や医療保険制度の運営に大きな影響を与えることになるでしょう。急性期病院の役割も、その地域の慢性疾患のコントロールの質によって異なるものになると思います。

 

 そんな時代の中で、総合病院は、診療所は、どのような役割をもつのか?地域医療は何を目標に行うべきか? この限られた医療資源と医療費の中で、医療を継続するには、質の向上と効率化しか道はありません。 日本においては、病院は全国に約9,000ヶ所あり、診療所の多くは個人開業であることも考えると、あまりにも非効率的な面が多々あります。機能分化や組織的なネットワーク構築、地域医療を提供するための組織基盤を考えると、病院・診療所の統合・改編を推し進める必要があります。医局中心の医師人材の流動性は大きな障害になり、一部、病院へのアクセスの悪化によって有権者も反対するに違いありません。さらに医療変革のタイムラインによっては、地域の医療崩壊が必ず生じます。変革せずに全てが崩壊するのか、一部崩壊すれど変革できるか、政治的にも、倫理的にもバランス感覚を伴った決断が必要になります。今後1020年の間は、その過渡期になる可能性があります。 

 

 2030年までには、地域医療/保健の中心に位置するような急性期/地域支援病院と複数の亜急性期病院、療養病院、グループで診療する地域診療所、在宅・介護支援施設が今以上に機能分化+合併・経営統合して、医療情報システムを中心としたネットワーク型医療が実現すると考えます。その中心に位置する総合病院は、保健所機能+地域医療政策の管理機能を合わせたような施設と協働して、地域医療の質・慢性疾患のコントロールを監視しながら、現行の出来高払い制をカスタマイズした支払制度で医療提供を行うことになると思います。さらに地域のニーズを詳細に把握するケアコーディネーター(保健師を中心)やプライマリケア医師を地域に配置して、地域の診療所を附属化して、現在の紹介状ベースの地域連携よりも強いコネクションを作って地域医療を支えることになります。つまりバリューチェーンに沿って水平統合を実現したヘルスケアグループが地域医療を守ることになります。


 ともかく、将来設計に関しては、世代が変わったとしても、政治家も行政も医学関連団体・学会も頼りにならないことは明らかです。医療にとって苛酷な時代がやがて訪れますが、その時は必ず変革型のリーダーが現れます。しかし、現在のリーダーシップ不在の医学界においては、ボトムアップこそが変革の原動力であり、現場の人々が、最高の医療のために効率性や質・安全の向上を目指して、医療以外の実践的智恵の導入、基礎・臨床医学研究での開発・実用、卒前卒後教育で良質な人材育成、システム全体のイノベーションなどによって、医療界自体が変化・改善し続けるしか道はありません。